Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

パリで健康診断も楽じゃない(1)

 必要があって、こちらで健康診断を受ける羽目になってしまった。ある機関に提出するためだ。先方指定のかなり細かい書式があって、検査項目の全てをおこなってくれる医者を探さなければならないのだが、それはフランスでは不可能だと知った。つまり、こちらでは完全分業制なのだ。流れとしてはまず最寄りの医者へ行く。医者が処方箋を書いてくれる。それを持って、血液検査なら血液検査を行うラボ(研究所)へ、心電図なら心電図、レントゲンならレントゲン、というように、それぞれ自分で予約を取って、検査し、支払いをし、それらの結果をかき集めてふたたび最初の医者の所へ持って行く。すると「はい、大丈夫ですね」(ダメですね、ここに問題が・・・の場合もあるのかもしれない)と医者が判断し、さらさらと診断書を書きあげてくれるシステムになっている。その間約2週間。何も健康診断に限ったことではなく、一般の診療システムそのものがそうなっているわけだ。この初回予約だけでも、混んでいる時は2週間待ちがざらだと言われた。可及的速やかに病気を発見しなければならないような場合どうするんだろう。そういうときは私立の大きい病院がある。緊急も受け付けているし英語も通じる。近代的設備で、そして、日本円にして何十万とかかる。解決策はどこの国でも一緒みたいだ。

 私の場合、この「最初の医者探し」でまず難儀した。ほんとうのことを言えば、こちらでは「社会保障制度」、みんなが「セキュ」(セキュリティ・ソシアル)とよんでいるあれだ。国民一人一人に番号が与えられ、それが書かれた緑の電磁入りカードを持っている。外国人とて例外ではない。加入は義務である。手続きはそれなりに複雑だけれど、イメージとしては国民健康保険みたいなもので、各方面から払い戻しを受けると最終的にはかかった医療費の3割程度の自己負担で済むみたいだ。私はいい歳をして学生ビザというステータスでフランスに滞在している。28歳以下の留学生に対しては、授業登録時に学校や大学で、強制的に加入の手続きをさせられる。しかし28歳以上の確固たるオトナには「自分でやっといてね。どこ行くのかは知らないけど」と情報すら与えられないのが常なので(もしこれからそのようなキトクなシュチュエーションを想定していらっしゃる読者の方がいたら)それなりに、覚悟は必要かも知れない。私の場合、もろもろの事情が重なり加入を伸ばし延ばしにしていたところ、こんにちまで未加入のままであることを白状する。まあ、企業派遣の人の話しなんか聞くと、例によって例のごとく、フランスというお国柄、何度も何度も加入のため足を運び、ついに番号を手に入れたのは1年後の帰国1週間前だった、なんてこと、普通にあるらしい。

 社会保障制度に入ると、一応最初に、自分の「かかりつけ医」というのを決め登録しなくてはいけないみたいだ。それから無料で5年に一度、健康診断も行うことができる。ところが「セキュ」無で、その上日本から適用される各種保険では「健康診断」は適用されない。全額自費となる。果て、まずはどこへ行くべきかとガイドブックやら大使館HPでお墨付きの病院にいくつか当たりを付ける。これが想像以上に時間を取られた。

 A病院では「そんなの無理です。学生じゃ払えませんよ。何十万とかかります。企業が負担してくれるなら別ですけど。日本へ帰って受けたらどうですか」と冷たくあしらわれ、日本人B内科医には「な、なんでウチなんですかっ。うちは機械がないので、身長は図れますが、体重は図れませんよ。それでも100~200ユーロはもらいますから。それ以外に5~600ユーロはかかるでしょうね。ほかにパリに、沢山医者はいるでしょう」「と言われても・・・某機関お勧めだったので電話したんですが、どこか、他でお心当たりはありますか」「僕はフランスでうちの病院しか行ったことがないので、ほかにどういう病院があるか一つも知りません」(――聞いた私がバカだった) 英語の通じるC医師やD医師の所も電話したけれど、ほとんどが日本人マダムが出産の時にお世話になる先生みたいだ。産婦人科なら産婦人科と書いてくれ。そんなわけで、一連の公リストに載っている先生方は諦めた。こうなったら我、フランス語の荒波に漕ぎ出で、開拓の闘いに赴くしかないだろう。

 結局いろんなインスティチュートや公立、国立病院をたらいまわしに彷徨った挙句、辿り着いた一人の開業医がいる。50代後半からその少し上の世代ぐらい、髪には白いものが混じり、静かなアパートの一室でもう何十年と(注:イメージ)患者を見てきた、といった感じの経験豊富な男性医師だった。私の住まいの近く、同じ区だった。週明けに予約を取ってくれ、私は経緯と財政困難を訴えた。静かな笑みを称えうなづく様子は、殆ど仙人のようであった。

 彼は自分のところで出来る項目と出来ない項目を私に説明し、レントゲンならこのすぐ近くで紹介できます、とその場で電話をかけ、翌朝の予約を取ってくれた。私一人で、フランス語で行うのは困難だった。血液検査についてはラボの調べ方を教えてくれた。インターネットで「laboratoire d'analyses de biologie medicale 」と入れて自分の区で検索をかけるとよい。あ、ここなんかいいんじゃないかな。大通りの、教会の直ぐ左手に入ったところだから。電話番号は今メモする?出来れば予約はしておくといいんじゃないかな、と、その場でいくつか候補を教えてくれた。

 フランスで、医者にかかるのは楽ではないが、苦労の末いろいろ身に染みいることも多い。その(2)検査編に続く。