Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

POISSON D'AVRIL(4月の魚)

 農業大国、自給率が高いフランスは、圧倒的に「肉の国」だ。日本の国産肉に比べると安く手に入り、コース料理でも牛肉メニューは豊富に並ぶ。秋から冬にはジビエという鴨、鹿などの家禽類が出回り、ちょっとした季語(風物詩と言った方が分かりやすい)である。パリでは寿司ブームが少し前に落ち付いたようで、今、それに代わってか「ハンバーガー」が大人気だ。カフェやレストランのメニューにきまって何種類か登場したのはここ2,3年とのこと、bioや厳選フランス食材のみに徹底的にこだわるハンバーガー専門店も登場し始めた。

 そんなニクニクシイブームを脇目に、ふと「パリで魚屋」ってあまり見かけないなあ、と気になりだした。住まい近くの最寄り駅周辺では毎水曜と土曜に朝市が立ち、そこで一軒見かけるほかは魚屋さん、いや殆ど「魚」そのものに出合った覚えがない。日本の築地市場のような場所は存在しないのだろうか。

 「カルフール」や「モノプリ」といったスーパーの魚売り場は、日本人が見たら多分、その充実度の低さに驚いてしまうだろう(必要性に迫られない私は大して気にならないが、まあ客観的判断として)。パリ市のHPなどで調べてみると、パリ市内に一応、魚屋あるいは魚市場と思しきものがあることはある。そりゃそうだ、寿司や和食ブームを支えてくれたのも魚さんたちいてこそだ。しかしどうもその道のプロご用達らしく、一部週末のみ一般開放されているところもある。ある時、道を歩いていてたまたま魚屋を発見した。寒い冬の日だったが、干上がってまるでうるおいのないお肌のBar(スズキ)が「なんでオレ、ここにいるんだろ・・・かあちゃん、元気っぺか・・・」という哀しい眼つきで道行く人々を見ていた。きっとブルゴーニュあたりから、ある晴れた昼さがり、はるばるトラックで運ばれてきたのだろう。

 ところでフランス語でマグロ、と言ったら鯖(サバ)のことなんだな。紛らわしい。じゃあマグロは何と言うのかというとthon(トン)である。ちなみに現代日本で最も有名な一家をフランス語で言うとこうなる。

 サザエさん=turbo(テュルボ)  かつお=bonite(ボニート)

 たら=cabillaud(カビヨ)    ます(お)=truite(トリュイト)

ワカメは辞書で引いても載っていない。どうしたことかとgoogle翻訳で引くとalguesとでてくるけれど、これは一般に「藻類」のことだ。それでもう少し調べてみたら日本語のまま「wakame」(男性名詞)というふうに使われているみたいだ。「shitake」とか「tofu」と同じように。お隣のイクラちゃんも同様(ikura、またはoeuf de saumonとも言うみたい)。タイ子さんはdrade(ドラード)かな。

 そういえばシューベルトの歌曲「ます」は、音楽の授業で出てきても「鱒」なのか「升」なのか分からなかった。もしかしたら一升瓶の日本酒を四角い升にいかにうまく継ぐか、というコツが分かりやすく歌われているのかもしれない。将来お相撲さんになりたい人は入学試験に必ず全曲暗誦しなくてはならない、とか。

 原曲はもちろんドイツ語でdie forelleであり、明るい河で泳いでいる気まぐれな「鱒」と、それを見ている「私」のお話だ。そこへ釣り人がやってくる。こんなきれいな河で釣りをしたって、澄み切った河の中じゃあ鱒はひっかかりゃしませんよ、と「私」は思うのだけれど、釣り人はなんと突然河をぐしゃぐしゃっとかき回して、水を濁らせてしまう。ひ、卑怯な。哀れな鱒はこの戦略にまんまとはまり、竿先に引っかかった。ちょっとばかし、腹ただしいじゃん、と「私」は思う。

 これで終わりかと思っていたら、なんとシューベルトがカットしたという最終章があった。要約すると「青春の黄金の泉にいるあなたたち、鱒のことを考えろ。あなたたちには用心深さが欠けている。娘どもよ、みなさい。釣竿を持って誘惑する男たちを。そうしないと、後悔するぞ!」

 この話の教訓は何だろう。青春の黄金の泉とは、さもドイツっぽい。さすがゲーテの国だ。フランス人はこういう表現はしないと思われる。(たいていは『愛』という禁断の必殺技で全てを片付けてきた歴史的経緯がある。って禁断でも何でもないじゃないか)そしてその前に立つ青少年、いやここでは若かりし純潔の乙女らに向かって警告を鳴らしている。男に気を付けろと。そしてそのためだけに、わざわざ哀れな鱒を持ち出しているのか。このあたり、マネできない文化的隔たりを感じる。

 突然ですが、エイプリル・フールって、あれは英語ですね。フランス語ではpoisson d'avril (ポワソン・ダブリル、4月の魚)と言う。本来エイプリルフールの行事は、フランス発祥だったらしい。なぜ4月1日か。1564年、シャルル9世が1月1日を元旦とするまでは3月25日が元旦だった。そして4月1日には人々が祝いのプレゼントを交換しあった。では次、何故「4月の魚」か。4月から魚が産卵期に入るため漁獲が禁止された。それで漁獲最終日の1日に、帰ってきた漁師たちをからかうために、人々はわざとニシンを河に投げ込み彼らに釣らせてあげたのがギャグの始まりだ、という話。他にも沢山の説がある。

 4月1日、子供たちは魚の絵を描いて人の背中にこっそり貼ってからかい合うらしい。また街には沢山の魚のお菓子やチョコが並んでみているだけでも楽しい。

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