Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

パリのガードマン

 パリのスーパーに行って驚いたのは、何も買わずして出られない仕組みになっていることだ。入り口、出口は別々だし、いずれも黒スーツの男性ガードマン(マッチョとは限らないが、何故か男性)がいて「カバン開けて~」「レシート見せて」とチェックされる。チェーン系のスーパーはまず間違いなく居る。職業的ガードマンである彼らは、必死で仕事をしている。(というパフォーマンスを見せている)化粧品売り場のおばさんにぴったりくっついたり、集団で入ってくる少年たちに二重、三重の職業的尋問を行っている。常にこうして黒服の権威を見せつけることに意義があると言っているかのように。ガードマン養成学校なんてのがあるんだろうか。転職の際にも「◎◎スーパーで店長賞5回」とか、地区ごとに「カリスマガードマン」が居て業界では知られた存在になっていたり。ガードマン会社の引き抜きとかも結構あったりして――というのは全て私の想像だが、まあ需要があるから供給があるわけで、パリのスーパーでは、それだけ犯罪率が高いということなのだろう。人種性別言語、子供から大人まで入り乱れ、敵はどんな手でやってくるか分らない。

 うっかり脱いだセーターなんかをカバンに入れていようものなら「なんだこれは」と引っ張り出される。私がかつて目にした例では、ちゃんと洗った形跡があるか、せっけんの匂いがするか、くんくん確かめられていた。売り場にないものだと判明するまで拘束されている。もちろん、他で買った商品など持っている時には、絶対によそのスーパーには行かないなどの自己防衛も必要だ。あとこれはちょっと書きづらいのだが――聞くところではアジア人はマークされているみたいだ。集団でいろいろ悪事を働くひとたちがいるらしい。私自身もかつて一度、尋問にあった。カバンの中にうっかり、あけたての「タイガーバーム」(塗り薬)を入れていたのだ。

ガードマン:「なんでこんなきれいなタイガーバームが、しかも箱ごとあるんだ」私:「それはさっき、出がけに、家から持ってきたものです」――首が筋肉痛だったんだよ。しかもそのタイガーバームは、昨日買ったばっかりなんだよ!返せ。

ガードマン:「パスポートを見せろ。日本人か。日本人ならどうしてタイガーバームを持っているんだ。メード・イン・チャイナじゃないか。そうか、お前ほんとは中国人だな。そしてこのビンの中身は、やばいモノじゃないだろうな。――よしポリスを呼べ」(公文書偽造、密輸の疑いもあれば、こりゃ大物をつったな。はかせてやる)

私:「日本人だって、タイガーバームぐらい持ってるときゃ持ってるんだよ。ポリスを呼ぶなら呼べ。私に恥はない。あんたが信用を落とす結果になるだけだ」

 堂々と切り抜けた経験があるけれど、時間の無駄だから、以後タイガーバームは持ち歩かないよう気を付けている(笑)。皆さんも。

 彼らのうちの殆どはまともに仕事しているのだが、店舗によっては「つまんねえな。早く帰りたいんだよ」といった、経験値低めにしか見えないガードマンがまれにいる。別にkarateやJudoとは言わないが、あっさりドロボーに逃げられそう。さらに「こりゃあ舐められてもしかたねえ」と私を心配させたのは、彼らがおやつを平気でむさぼっていたことだ。こちらの人間は、四六時中どこでも構わず平気でものを食べているのが普通で、生活習慣・文化的な差異あってのこととは私も分かる。でも威厳が命のガードマンが出口のガラス戸の前でむしゃむしゃチョコサンドクッキーというのはどうなんだ?手にしているのは、パッケージにアニメ柄が書かれた子供向けお菓子で今週の特価品コーナーに置いてあるものだ。日本で言うなら某省危機管理室の役人が、勤務中に人目かまわずビスコをかじっているようなものじゃないか。別にビスコを食べちゃいけませんという法はないけれど。

 成人以後の男性が、幼児向けお菓子を好む件について。個人的には好ましく思えない。「個人の勝手」と言われればその通り。でも地球上には、6歳には6歳向けの、大人には大人向けの物事がある。若い者が一生懸命背伸びをするのは世代の特権だ。(20代で頑張ってシングルモルトを飲んでみたり、といったような)でも努力を放棄した逆のパターンでは、ただの幼稚化と変わらない。例えば遭難者が「最後の非常食だ」と板チョコを分け合う状況設定はノーマルだ。でもスポーツ選手が食べている姿がTVで話題になったからと言って、翌日から大のオトナの男たちがこぞって(部長、課長、係長まで)スーツ姿のまま、職場でブラックサンダーをかじりだした国というのも、どうかと思う。

 ガードマンのハナシに戻ろう。いっそのこと出口付近でバリバリにJazzを踊ってくれたらいいのに。ガードマン学校の卒業試験に、ダンスを。マイケル・ジャクソンのビート・イットとか、デンジャラスあたりが課題曲だ。3,4人も黒服が集まればそれなりに迫力があるだろう。「パリのガードマンは並みじゃねえ・・・」世界中から集まった有能なドロボーさんたちだって、そこを無傷で通り抜けることなど出来まいと、こぞって逃げ出すだろう。