Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

velib ヴェリヴ / そして パリを駆け抜ける彼ら 

 パリの街を駆け抜ける二つのものについて記す。

 【その1】:グレーの自転車が走っている。Velib(ヴェリブ)という2007年パリ市が導入したレンタル自転車だ。VeIo(ヴェロ:自転車)とLible(リーブル:自由)を組み合わせた造語らしい。街のあちこちに無人の専用スタシオン(駐輪場)があり、最初に保証金とともに登録すれば、誰でも自由に借りられる。しかも30分以内なら無料ときた。こりゃあみんな自転車買わなくなっちゃうよ、と余計な心配をしてみたが、そもそも導入の根拠は、市内の自動車による道路渋滞の深刻さ。なんとか緩和しようと行政が乗り出したことによる。

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 確かに、ひと駅程度であればバスやメトロに乗る必要もなく、すすいっと道路を抜けてしまった方がはるかに早い。最初聞いた時は、石畳のヨーロッパで自転車ってうまくいくのかね、オランダじゃあるまいし、と案じた。ところが実際、道を見て驚く。『自転車専用レーン』がかなりの割合で整備されているのだ。うっかりそこを歩行者があるこうものなら、見ず知らずの人に「危ない!」「ダメダメ」と怒鳴りとばされる。(なんでパリ人はこういうことに熱心なんだ?)

 老若男女、と書きたいところだけれど、さすがにお年寄りや、小学生が乗っている姿はあまり見かけない。というのも、後者については、13歳以上、150センチ以上という身長制限がある。年齢はともかく、私の場合、身長はぎりぎり。ぱっと見たところ、デザインのシックさも手伝ってか、20代~40代の若者・中年層が中心のようだ。会社帰らしきスーツの男性や、髪をポニーテールにしたちょっとお買い物風の女性がはつらつと風を切っていくのを見るのは、気持ちがいい。パリにまたひとつ、新しい風景が加わったわけだ。題して『自転車に乗る人々』。1日、1週間という単位でも登録できるため外国人旅行者の利用率が高いらしい。米国人などこの手のものは好きそうだ。

 スタシオン(駐輪場)にも大小あり、常に混んでいるところから、人気がないのか人も自転車も動きが見られないところまで様々だ。返したい場所が既に一杯で、返却できなかった場合など困るじゃないか。公式サイトによると、カードで〈ピピっ〉とその旨登録すると、すぐさま最寄りの別のスタシオンを電子画面で教えてくれるらしい。無料で15分延長となる。でも自転車で15分行った先って、歩いて戻ってきたら、結構な距離になるのでは?

 「市民の足」としての自転車は、だいぶ定着してきたらしいが、私がよく見かけるのは、市庁舎前、マレ地区で、あるいはセーヌ河畔など、自転車に乗った5~6人の観光客グループのほうだ。そろいの安全ジャケットをはおり、自転車で市内を自転車で観光するツアーだ。先頭にはアメリカ英語を話すガイドさんがそれぞれのポイントで解説を加えている。何故か女性が多い。ウォーキングツアーよりは広範囲を回ることができるし、バスよりは小道や店のひしめく間もすいすい走り抜けていける。ちょっと降りて写真をぱちりと取ったり、サンドイッチを買ったりもできる。ここはツール・ド・フランスの国。自転車のみならず「走りモノ」に対する興味は、もともと強いのかもしれない。

 【その2】:日曜の午後、恐るべき光景を目にした。場所はルーブル美術館を出たあたり。物凄いスピード集団が走り去ってゆく。もちろん、自転車でもバイクでもなく彼らは二本脚。そう、うわさの『ローラーブレード』である。(=商標。正式には『インラインスケート』) 聞いたところによると、日曜午後と金曜夜(22時)にどこかの駅に集合して、あらゆるルートで市内をローラーブレードで走るそう。数えていないけれど、かなりの人だ。次から次へと終わりがないんじゃないかと思うぐらい。300人ぐらいかなと思ったら、とんでもない!晴れた日曜は平均千人以上だと!中規模のマラソン大会を、沿道で応援している気分だ。老いも若きも、ベビーカーに乗った赤ちゃんまでいる。ハイスピードでベビーカーを押しながらローラーブレードで走る母親というものを見たのだって、一度や二度ではない。あの子、大きくなったらスピード狂になるのでは、と人ごとながら心配だ。

 1993年に始まった当時は日曜と金曜は別の団体が主催していた。でも規則もなくスタッフもいないのでは危ない、ということで、パリの警視庁がさっさと法律と集団を取り決めた。すごいね。正しくは条例にのっとって、集団は走行時には車も歩行者も止め、ローラーブレードの皆さんの安全を優先させることができる。

 さらに驚愕の事実が。なんとパリ警視庁 『ローラーブレード警察/La Brigade à roller de la Police』(1998年より) まで作っちゃった!!本気度が違いすぎる。彼らは厳しい選抜試験を潜り抜け、ローラーブレード警察としてプロのトレーニングをこなしている約30人。集団の先頭と最後尾(警察の車、救急車も走行)を守り、脱落者の保護や誘導を行う。

 そういえば私が小学校高学年だった頃、日本のアイドルでローラースケートを履いて歌い踊る男性グループが居た。クラスの女子どもは学校にブロマイドを持ってきて「誰だれ君のファン」と自身のアイデンティティーを宣言しなければならず、それによって女子の派閥が決まる程の影響力を持っていた。当然彼らにひとかけらの興味もない私は派閥外。そんな私が何十年後、外国で改めて「おおっ、パリのローラーブレード警察はかっこいいぞ!」と思う。これならファンになってもいい。引きしまった横顔、ローラーブレードを足の一部の如く自在に操り、私の横を風のように横切ってゆく完璧なフォームには、職務遂行への並々ならぬ情熱が感じられる。スピンもスネークもクロスも、じつはバリバリにこなせちゃったりするのかもしれない。

 さすがにNYもスコットランドヤード(ロンドン警視庁)も、ローラー隊まではいないだろうなあ。ますます気になる、今日もパリを駆け抜ける彼ら。 

f:id:kotorio:20140508062634j:plain 写真:「roller-skating Magazin」