Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

パリダンサー図鑑(9)エキスパート編 フランス・コンテンポラリー界 Julien Desplantez/ジュリアン・デスプランテ

 例えるなら、若手ビジネスマンの域をすっかり通り越して、末はフランス・コンテンポラリー界の『ゴッド・ファーザー』の椅子は固い、40代前半中堅管理職(それもかなり上級官僚)と言ったところか。

 フランスはピレネーにほど近いルルド出身、6歳からダンスを始める。トゥールーズでジャズ等を訓練、1999年に法学修士号取得後、パリで本格的にコンテンポラリー専攻を決める。En 2000 lauréat du concours de Voiron, とCV(履歴書)にあるので、有名なダンスコンクール「ヴォアロン」の勝者。これをきっかけに、国立ダンス振付センターグルノーブルのインターンへ。「フランス国家」を背負った表街道突っ走りの経歴はここから続く。

 彼の名はJulien Desplantez/ジュリアン・デスプランテ。一瞬ビビッと来たあなた、もしかしてフラメンコ、スパニッシュダンスをやっている?そう「デスプランテ」は、(実はバレエのドンキホーテなどでも使う)、フラメンコで急にステップを止め「ここぞっ」っていう決めポーズを取る姿勢、動きのこと。芸名にしては出来過ぎだと私は名前を見ただけでクラスを取ろうかどうしようか恐れおののいたくちだけれど、まあスペイン国境の山麓生まれだから、デスプランテさんは沢山いるんだろう。

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 2001、2002年とデュオ作品、双子をテーマにした個展等を開催、そこから彼は創作活動の場を国際的に広げていくわけなんだけれども(詳細略)、読んでいて面白いな、と思ったのは「彼は『有機的ダンス』を探している、それは本能的であり、パルスとモーターに俊敏に反応する身体の自由さ」と表現する。

 2009年、国際ダンスフェスティバル(ロンドン・キューバ/ハバナ)、2010、2011シーズンはフランス、ロシア、以後2014年までチリ、カナダ等でもデュオやカルテット作品を発表しながら、コンテンポラリーダンスにおける国家ダンサー養成、国際インターンシップ客員教授、フランスダンス連盟の審査員等、様々な肩書きを担っている。

 先日載せたばかりのニコラ・ル・リッシュさえ思わせる長身、優しげで細面の顔立ち、バスティーユ駅までの道で何度かすれ違ったけど、学生時代、アルベール・カミュは4カ国語ですらすら諳んじて文学や哲学も良かったんだけど、実業界のほうが向いてそうだったから、ひと通り、法律を修めておいたんだよね、とかさくっとのたまいそうな感じ(注:イメージ)の理性派Prof。

 彼の硬質なセンス溢れるサイトが手っ取り早い。QUETEM/ Accueil

 序文にはこんな言葉が書きつけてある。「私は自分自身が驚くことを見つけたい。自発的な感覚に寄って有機パルスを反応させること。移動する時の最高速度、最大振幅、それを支える落ち着いた、流動性のある自由な身体を求めている。私はその重心(重量)に共振し身体を移動させてゆく。私は自由な身体可動性のための技術を使用することを好む」

・・・・言葉で書けばこのようなことを、実際に身体でやれとなると、どうなるか。確実に・・・人間倒れる直前まで行けます、ハイ。14歳の真夏の体育館のダンス部合宿より、キツイです。記憶飛びます。もう出血大サーヴィス、見た方が早い。つまり練習はこういうことだ。(スタジオは違います、先月のワークショップがアップされていた。彼は国内ではパリのほか、週末はマルセイユやルルドで教えたりする)


Julien DESPLANTEZ Workshop cours atelier Danse ...

で、その結果、彼の造り出す舞台は「神」レベルだ。こんなのピナ・バウシュしか知らなかったぜ、という人も結構いるんじゃないかと(笑)

Il y avait ce fou 


Julien Desplantez Il y avait ce fou http://quetem.com ...

 コンテって、どうも分からない、振付家とやってる本人たちは楽しくても見てるほうは全然わっかんない、という感じは当然ある。フランスにいたって、イミテーションは多い(と私は感じている)。なんとな~く「コンテっぽいもの」「それっぽくみえるもの」で落ち付いてる作品を見るとどうにも気分が悪くなる。コンテはまだ自分にとって混沌の世界であることを前提に、けれど「分からない泉」に飛び込んでみる夏も、悪くない。

 余談だけれど、20年ぐらい前によしもとばななの「とかげ」というショートストーリーを読んでいて、エアロビのインストラクターをしてた「とかげ」さんが、“自分のエネルギーを外へ外へと向けて発散していくんじゃだめだと気づいたの、内側へ向けていかなきゃ乾きが満たされなかったの”、みたいなことを主人公にわりと冒頭に近い部分で打ち明ける個所があった。今もろにそのシーンが克明に思い出される。ジュリアンの踊りを踊っていると、「とかげ」がすぐ近くにいる気がする。