Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

Nicolas Le Riche ニコラ・ル・リッシュ引退所感/一夜明けフランス各紙評など

 小雨降りしきり人々はコートに長傘を手にしている。とても7月とは思えないパリ19時半。この男のAdieuにパリの空が泣いているなんて言ったら気障だけれど、本来この時期、夜遅くまでフル稼働の明るい夏の太陽ですら、本日は臨時休業、おうちにかえってアルテのネット生中継を見ていたか、あるいはパリの4映画館の椅子に座って、中継放送を見守っていたか――『かつて、いいえ、オペラ座のダンサーはこのような別れの儀式を経験したことがありませんでした――』フィガロ紙はこの特徴的な現代のアデュー公演の模様を記す。フランス国内のみならず、世界の至る所から、彼の最後の瞬間を人々が見守っていた、7月9日、夜。

f:id:kotorio:20140711034033j:plain

Nicolas Le Riche, un baladin tire sa révérence

 À 42 ans, l'âge limite pour être danseur à l'Opéra de Paris, l'étoile s'est organisé des adieux très particuliers à Garnier. Son ami Guillaume Gallienne lui a composé un poème en guise d'hommage que Le Figaro vous propose de découvrir.(訳)オペラ座ダンサーの定年42歳で、彼はガルニエ宮に別れを告げる。彼の友人ギヨーム・ガリエンヌは、本紙ル・フィガロへ彼への賛辞の詩を寄せた。

 ル・モンド紙のほうは『若者と死』の舞台写真を入れ、リード文には昨夜の様子がありありと分かる、いい書き出しです。

f:id:kotorio:20140711035437j:plain

Quelle fête ! Quel triomphe ! Trente minutes d'applaudissements à tout rompre : les 1 900 spectateurs du Palais Garnier, à Paris, debout, ont acclamé Nicolas Le Riche. Il est 22 h 15, mercredi 9 juillet. Ça y est, c'est fini. Le compte à rebours est terminé. L'échéance attendue appartient déjà au passé. Le danseur étoile de l'Opéra de Paris, Nicolas Le Riche, 42 ans, a fait ses adieux à son public et à ses collègues. Pluie d'or et d'argent pour l'un des plus grands danseurs du moment, star internationale et fleuron de la troupe française.

 重複個所省いて要約;『ニコラルリッシュ42歳の最後は、1900人の観客による30分のスタンディングオベーション(拍手)22:15まで続いた。この偉大な、フランス最大の、かつ国際的なダンサーが同僚と聴衆に別れを告げている間、金と銀の雨がいつまでも、やむことなく降り続いた』。(詩的に(私的に)訳し過ぎだ)

  産休復帰のドロテ・ジルベールがライモンダで舞台に姿を見せ、日本公演(世界フェス)でもコンビだった「アパルトマン」では旧友シルヴィイ・ギエムと。(中継なし)「若者と死」は意外なペア、エオノーラ・アバニャート。私は個人的にはマリ・アニエス・ジロとのペアが好きだったので最初違和感があったが、彼女は素顔のイタリア~ンな太陽女の強気さを極力脱ぎ捨て「フツーの魔性」(なんだそりゃ・笑)で攻めていたので妙に裏を突かれ納得せざるを得なかった。まあ本日の主役は、何と言ってもニコラだ。3回の休憩をはさんで、最後はもちろんボレロ。白い手が浮かび上がった時、ああ、フランスは、オペラ座は、いま、(単に)偉大な、ひとりのダンサーを送るのではない、指で数えるほどしか存在しない、歴史的『ボレロ・ダンサー』を送るのだ。その最後の15分が始まったんだ、と思った。

 涙はなかった。最後まで、笑顔で、仲間たちを舞台にこいよ、来いよという仕草で呼び寄せていた。ボレロ・ソリストを努めたカール・パケットが、背筋を伸ばしてニコラを見る視線のなかに、凛としたものを感じる。永遠に終わりがないんじゃないかと思えるほど繰り返されるカーテンコールで、隣に居るシルヴィイ・ギエムの、なんて優しいまなざし。この人は、なんて温かな、なんて瞳で、友を見つめるのだ。こんなギエムの微笑み、見たことない――。

 ギエムとニコラのマルグリットとアルマン(椿姫)、初めて買った画期的な薄さの『DVD』というヤツ(それまでは『ビデオ/VHS』というモノだった)あれ、10年以上前だったっけ――とか、この二人は同じ「ボレロダンサー」でもあるんだよな、とか・・・、孤高のダンサー二人の強い絆に敬意を表しつつ、ああ、ニコラ、秋にはまたすぐ、その姿を、見られるんだよね。あなたの旅は、続くのだよね、とどこか明るく思うことができた。

 こちらはフランスTVinfoのニコラ写真連打!でかくて見ごたえあり。ジゼルや最後の演目となったノートルダムが入っています。アパルトマンもいい写真だなあ。

Les 10 images inoubliables de Nicolas Le Riche à l'Opéra de Paris

 アデュー公演はフランス国内ではテレビ放映とのこと。

 最後にNYタイムズ紙から。Mr. Le Riche was the youngest of the group of Paris Opera étoiles who were picked as future stars by Rudolf Nureyev. CreditSébastien Mathé 

 ――ニコラ・ル・シッリュ氏はルドルフ・ヌレエフによって選ばれた、パリオペラ座・未来のスターの末っ子だった――。

f:id:kotorio:20140711053306j:plain