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Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

A word from Diana Vishneva/ディアナ・ヴィシニョーワ:革新への試み

 ロホに引き続き、興味深い世界のバレリーナの一人、Diana Vishnevaディアナ・ヴィシニョーワ Diana Vishneva Official Website を取り上げる。1973年7月、ロシア・サンクトペテルブルグ生まれの38歳。ワガノワ学校時代から既にマリイン劇場の舞台で踊っており、95年卒業後即入団、翌年プリンシパルという信じがたい経歴。パリオペラ座、ミラノスカラ座などへ客演が多く、2005年よりABTのゲストプリンシパルとして活躍。私など、最初見た時はABTのダンサーだと信じて疑わなかった。167cmの長身から生み出される豊かな音楽性に定評あり。ジゼルや眠りなど古典作品が多く、ブノワ賞、ゴールデンマスク賞、ロシア人民芸術家など受賞。マラーホフやゴメスとのパートナーシップ多数。

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 彼女の動画は古典作品で山ほどあれど、こちらのCMをご覧あれ。ご存じケラスターゼの最新作。なんと振り付けはあの現代舞踊の母、フランスにコンテンポラリーダンスを持ち込んだ生みの親、フィンランド系アメリカ人振付師のカロリン・カールソン!!


Kérastase Discipline featuring Diana Vishneva ...

「何故ケラスターゼに、ディアナか?」を、カールソン自身が明瞭に答えている、振付コンセプトを明かしたインタビューも。


Kérastase Discipline : interview with Carolyn Carlson ...

 ――いよいよ本題。

 極めて個人的だが、私はダンスという芸術を(=ダンサー、コレオグラファー、カンパニー)を通して、最近「アーティスト」の定義を大きく、以下の二つから考察している。

(1)長期的スパンの中で改革し続けること

(2)倫理的・社会的な責任を負っていること

(⇒具体的政治参加という意味でなく。美的・質的・芸術の役割とは。社会的な声明をどういう形で発信し、何を担っているか)

 もちろん、初めてヴィシニョーワに惹かれたのはその神レベルの(髪じゃないよ!)の舞台上だったわけだが、今となっては彼女がまさにこの1と2、ともに満たしている数少ない、私にとっては興味深いダンサーの一人として存続している訳だ。

1)は、近年、彼女は現代作品へ取り組みだした。2013年12月にはモナコ・モンテカルロバレエ団で上記振付家カロリン・カールソンとのコラボ作品『women in a room』、また同バレエ団芸術監督のジャン・クリストフ・マイヨーが彼女のために振り付けたトリオ作品「Swich」。夏にはどうやら日本で「ヴィシニョーワの世界」と称した現代作品のガラを行っていた模様。ジョン・ノイマイヤーが彼女に振り付けた新作「ダイアローグ」他、バランシンやローランプティ作品を披露したようだ。彼女はインタビューの中で「まず振付家のカンパニーでレッスンを受け、その振付家特有のスタイルを吸収した上で、リハーサルに臨む。古典バレエとは異なるテクニックが要求されるため、筋肉の使い方が変わり、体のラインが変化することもある。限られた時間のなかで全てを吸収するのは大変だがやりがいのある挑戦」と語っている。


Diana Vishneva, « On the Edge » avec les Ballets ...

 かなり辛口承知で書くが、クラシックを踊れなくなったバレリーナたちが次々とモダンに手を出し、悲惨な姿をさらすのを目にしてきた。観客の立場からすれば、頂点できれいに引退という手も、とも思うだろう。以前のように動かなず、上がらない足、太りきった身体で訳の分からない作品をちょこまかと踊られては、チケットを払う気にもなれず、私ですらがっかりさせられたり、怒りすらこみあげたのも一度や二度でない。

 彼女は(どうやら)異なる。現代作品に挑戦するのはクラシックからの衰退ではなく「振付家の考えを理解することで、見た目の美しさを越えた(これは古典のことを指している)より大きな世界に到達するため」と答えている。そして事実、古典を文字通り骨の髄まで踊りこんできた彼女にしか踊れないモダン作品へと完結している。これは最初っから古典の基礎をないがしろにして「私はコンテ(現代)ダンサーだから」と言っている人々のそれとは、全く逆の結果を生み出している。

 現代作品に取り組んだヴィシニョーワのスライド特集:「私は何を学んだか」ロシア政府発行紙「Russia Beyond the Headlines(RBTH)」日本語版があります。

ディアナ・ヴィシニョーワ:私は何を学んだか | ロシアNOW

(2)いちアーティストとしての社会的責任について

 さてヴィシニョーワは2010年、自身の財団を設立した。趣旨は彼女の公式サイト、ファウンデーションの項目より。ロシア語は読めないので以下は英語版のページからできるだけ忠実に要約に努めた。

「2010年9月、マリインスキー劇場でバレエダンサーとしてキャリア15周年を迎えた。プロフェッショナルとしての役割を果たし、国民にこのアートを提供し、世界に自分の名で多くの信頼を得るに充分な期間であった。そこでこんにち、私はその経験を生かし、芸術のために何かを返したい。残念ながら、ひとりでは困難であろう。よってバレエの協調的発展のため、当財団を設立に踏み切った。以下の3つの目的のため。1:バレエを全ての社会階級の子供たちに提供すること。今裕福な家の特権となっていることを認めなければならない。諸事情により叶えられない、あるいは能力を持っていないダンス卒業生への継続のサポート 2:ダンサー、退職パフォーマーのための財政的支援。現在この問題に立ち向かえる組織、解決機関が存在しないことが問題。3:新たなバレエプロジェクトの生成。ロシアは良い振付家が不足している。新しいプログラムをサポートする必要がある」

 4年が経過し、その後の経過レポートというのが出てこないのが?だが、こうして自らの名で財団を立ち上げるという実際の行動を起こした芸術家としてのヴィシニョーワは、もっと評価し、過去の栄光以上に、報道されていていいのではないかと思う。

 この「ダンサー(アーティスト)の社会的責任」というテーマで、前出タマラ・ロホのインタビュー、NYCの取り組み、またパリ・オペラ座の「あの」ダンサー(!)の課外活動等耳より情報を取り上げ、次回以降2回連続でお届けする予定。

 マリインスキー劇場公式HP:私の好きなロパートキナUlyana Lopatkinaもいます。

Mariinsky Theatre Official Website