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Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

ダンサーの社会的責任(3)パリオペラ座ダンサーHervé Moreau / エルベ・モローが繋ぐ人々:メキシコ人ピアニストと支援活動

 パリ・オペラ座のエトワール、HERVÉ MOREAU(エルベ・モロー)をご存じだろうか。パリオペラ座の定年まであと5年の36歳。オペラ座HPの彼の経歴は以下の通り。

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 1989年、ダンス学校入り、18歳で入団、99年コリフェ、2001年スジェ、06年エトワール――順調に階段を上ってきた王道派。鼻血が出るほどセクシーとか、立ってるだけで男気があるとか、テクニックが殿堂入り、という訳ではない。正統派ノンブル、どんな役も卒なくこなし、特に今年2月に引退したばかりのパリマダム的貫禄を備えた<The女優!>イザベル・シアラヴォラとの『椿姫』での絡みは、ひたすら神々しい貴公子だった。オネーギンも然り。歳上の女性の美しさを、更なる深みを加え輝かせることができるのは今のところ彼だけ。熱すぎない「蒼い炎」を抱えたダンサーで、彼は小作品より(バランシンとか、絶対ダメ!)ドラマティック作品の中の役を舞台上で「生きる」とき、そのクールな熱に伝染要注意。容易に感情を爆発させたり、叫びまくるのがいかに簡単で、幼稚な手段かと思い知らされる。静かに、青いバラのような香がいつも漂う。今のパリオペラ座では、彼独自と言えるだろう。
 2014年のこの夏、彼は『エトワール・ガラ』で日本公演に行ったようだ。私の記録によれば2005年が最後だったはずだか、何年ぶりだろう。若いころから怪我に悩まされていたエルベ、役に恵まれても降板が続き、パリオペラ座を3年間休業した。2011年前後では、アデュー(引退)説が深刻に囁かれた。ところが2013年、オレリーとロミジュリで本格舞台復帰。体型が変わっているとか(太ったり筋力が落ちたり)といった不安は皆無。というより、昔より精悍さもキレも増して、若返った!?
 
 休業中の彼について。リサーチすると彼の名で作られた「パリ・オペラ座」のショートフィルムがヒットする。なんと、彼は「監督業に興味があり」映画学校に通っていたらしい(インタビューで打ち明けている)。「椿姫」にしても、画面構成の中で、俳優たちをいかに動かし、配置するか、という視覚的な全体像が必要になるとのこと。ダンサーとして、あるいは将来に生かしたいと現時点では語る。
 復帰後は、待ちわびていた多くのコレオグラファーが彼のため作品を振り付けた。期待に応え多忙を極めるエルベ。日本のガラの後、通常8月はバカンスのはずだが――。NYのカーネギーホールのHpで以下発見。
LUZ DE LUNA, the benefit piano-dance recital will take place at Carnegie Hall in New York City on November 3. 2014. The event's proceeds and sponsorships are Crescendo con la Musica Foundation's (CMF) main fundraising endeavor of the fiscal year.provide musical education to under served children in Guadalajara, Mexico, as well as future projects across Latin America.(要約)「LUZ DE LUNA」:ピアノとダンスのリサイタルが、11月3日、ニューヨーク市カーネギーホールで開催される。スポンサーはCON音楽堂財団(CMF)。メキシコなどラテンアメリカの貧しい子供たちへクラシック教育を提供する活動だ。ピアニストであるホルヘ・ウエーバーの個人的財団の活動によるもの。彼の個人的交流のうち、パリ・オペラ座のエルベ・モローが、彼のため振りつけられた(同オペラ座)新監督ベンジャマン・ミルピエの作品等を初演する。素晴らしいピアノとダンスのガラになるだろう。New York Foundation for the Arts 』
 
 再びエルベの話に戻る。彼が休業中に手に入れたのは怪我の完全回復とバレエ以外の学業、に留まらない。Jorge Viladom(ホルヘ・ヴィドラム)という1985年メキシコ生まれの29歳のピアニストとスイスで知り合うきっかけがあった。ホルヘはスイスのローザンヌ音楽院で学び、欧州各地の賞を総なめにした今若手で最も注目される、国際ピアニスト。若手の中でも卓越した技術とカリスマ性、さらに文句のつけようのないイケメンマスクが手伝って、引っ張りだこだ。
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彼は2012年に自身の財団を設立した。祖国メキシコで、貧困以下の生活を強いられている子供たちに音楽教育の機会を与える活動を趣旨としている。

本人HPJorge Viladoms   財団HPCrescendo con la Música

 という訳で、エルベ君はバカンス返上でその準備にロスに飛ぶ模様。このプロジェクトはもちろん世界中の大手スポンサーから資金を集める目的なので、完全無料奉仕だという。世界の、あのニューヨークのカーネギーホールで、世界の若手国際ピアニストとオペラ座ダンサーがガラで無料奉仕?ホルゲのツイッターでは、5月の時点で既にオペラ座新監督、ミルピエとエルベと三人のプライベート写真がのっており――なるほど・・こういう世界的プロジェクトが進行しているとはしらなんだ・・・。

 彼がフランスのラジオ局に招かれた際に、演奏を聴きに行ったエルベは、その財団について話をしたのに心を動かされたよう。自分より若いアーティストが、芸術以外に時間を割けること、また自分はたまたま親がいただけであり、彼の出身のようなメキシコを始め、世界にはどんなに希望や熱意を持っていても、貧しく家庭財政から音楽教育を受けられない子供がいることに胸を痛めた。それを支援できるのは、成功した我々アーティストの使命ではないかと考え、自ら何か協力できることはないかと持ちかけたらしい。

 ガラといっても世界のNYのカーネギーである。(カーネギー公式HP)Carnegie Hall - NYC Concert Tickets, Events, and Music Education | Carnegie Hall エルベ、ホイゲともセッションのほかソロ作品が予定されている。エルベのダンスはホイゲの18番ドビュッシーの『月の光』から、なんと世界的現代振付家、イリ・キリアンが彼のこのために振り付けた――。Oh my God! 信じられない――。NYや世界でアクションを起こすと、その輪に共感した力のある人間たちがどんどん、乗っかっていく。それを想うと、胸が熱くなる。日本とはやることの規模が格段に違う。もちろん影響力も。

 11月のNY、フランスに住んでいる私でさえ、こんな話を知ってしまえば、行って演奏をじかに聞いてみたい、と切に思う。そして何とか、こういう活動をしているアーティストのことを、多くの人に、言葉で伝えられないものかと思う。まだ、根っこがジャーナリストなんだな。

 最後にインタビュー動画と、ピアニスト・ホルゲの演奏をお楽しみください。彼は日本ではあまり知られていないのかなあ。こんなにイケメンなのに。HPも全て英語で分かりやすく発信されているし、財団の方では活動趣旨や、彼のメキシコでの写真もUpされている。

 一つ目はスペイン語TVのインタビューですが、注意していると英語・フランス語に似た単語も多く、こと音楽や経歴を語っているためおおよその内容が把握できます。

El pianista Jorge Viladoms se presenta en Bellas ...

こちらは2014年1月、ローザンヌのコンサートの模様。


Jorge Viladoms, César Frank - Symphonic ...

 

<以上、『ダンサーの社会的責任(全3回)』シリーズは終了。引き続きこのテーマも追いかけて行きたいと思います。ご支援宜しくお願いします>