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Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

女から幻影を奪うことは――A Case Of Identityより

 『A Case Of Identity』(A.コナン・ドイルによる某短編小説)の締めの一文が分からず、調べまくってしまった。

(自分訳)「君はペルシャの詩人の言葉を覚えているか?虎児を得るには危険がある、女から幻影を奪おうとするにも、同じ危険があるってね。ハーフェズホレスと同じぐらい、鋭い勘と、世知に長けてるよ」

 ん~?この文から「推理」(笑)できるのは、ハーフェズ=ペルシャの詩人であり、それは「彼」の認めるところとするホレス(=鋭い勘と世知がある)と同等、ということなんだけれど、

―――ハーフェズ:14世紀イラン(ペルシャ)の詩人。ペルシア語圏で知らない人はいない「聖なる存在」、愛の抒情詩を歌った。各家庭にコーランとハーフェズの詩集が必ず一冊あると言われた、人々の精神的支柱。四大詩人の一人。

 とのこと。それでなるほど、納得。第一長編で「文学の知識――なし」と相方に記されていたのに(笑)またこの短編の中で、依頼者の持ってきた男の人相をしたためた文を読んで「極めて平凡だ。バルザックを一度引用している以外」とさりげなく指摘している個所もあった。彼にとっては文学だろうが何学だろうが、世の中を構成する学問体系の一つ、あるいは教養レベル(一般人からしたら高度でマニアックに違いないが)にすぎないのかも。

 ちなみに、ゲーテにも影響を与えたとされるこのペルシャ詩人自身の恋が「イランのロミオとジュリエット」という話に仕立て上げられ2007年、日・イラン合作映画として公開。予告動画を見て、あ、180度私のテイストじゃない、と。

 愛って苦手。だってそれ『僕が最も尊重する<理性>の対極にあるものだから』(笑)出典は皆さんご存じのように。

 さて、このセリフの主、バイオリンの曲は好みを口にしても、めったに人を称賛することはないのだけれど、知識ゼロと思われていた文学畑にも関わらず、ホレスがお眼鏡にかなっているのは納得がいく。

 ホレスさん、辞書では「Roman lyric poet said to have influenced English poetry (65-8 BC)』となっていて訳すと「イギリスの詩に影響を与えた紀元前65-8世紀のローマ抒情詩人」。彼が言ったとされるのは「会話をする時は、相手、材料、場所の三つに注意せよ」言うまでもなく、彼の推理分析手法の、基本中の基本を述べているわけで。

 よりによってなんでまた東西 lyric poet (抒情詩人)を持ち出してこの短編を締めくくったのか、と私なんか「推測」してしまう訳だけれど。

 この短編でも大きな役割を果たした「手紙」。詩人の活躍した紀元前ぐらいの大昔なら「書簡」はそれ自体が独立した作業=詩学と考えられていた。特にホルスにとって、書簡=詩は、セマンティック(意味)を持ち、慎重かつ巧みでなければならなかった。ハーフェズにとって詩は「愛=感情を紡ぐ」手段だが、ホルス的には実用性が高い「理論」だったのかも。(日常ギリシャ語で書いていたから。愛を詠むだけなら当然ラテン語だ)

****************************本日のネタは以上。

  おまけ:「ギリシャ国立オペラ座」バレエダンサーたちによる『ギリシャ版ロミジュリ』。ギリシャ国立オペラ座というのは私もノーマークだったのだけれど、もちろんアテネにあり、オリンピアシアターとか立派な名前がついている割に、さびれた映画館みたいな外見で(2006年ごろ行った)けれどあのマリア・カラスがデビューしたという、現在もその唯一の事実のみで押しまくっている凄いカンパニーである。

Romeo and Juliet - Season 2011-12

 ギリシャ版の「ロミオとジュリエット」TVスポット。もちろん全編ギリシャ語。意表を突かれます。ギリシャのテレビCMって、初めて見たかも(笑)

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(自分訳):「見えないんじゃない、気付かないんだ。君は、どこを見たらよいか分からない、だから、重要な全てを見逃している。全体的な印象を絶対に信じてはいけない。細部に集中しろ」

 ―――女から幻影を奪うことは、危険なのです、ロミオ君。