Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

グラナダ版ホームズ長編:第34話 THE MASTER BLACKMAILER 『犯人は二人』 

 

 正典は『The Adventure of Charles Augustus Milverton』恐喝王ミルバートン:の邦題。56短編のうち31番目、1904年3月ストランドマガジン。『ホームズの帰還』収録。グラナダファン『シリーズ一の傑作か?』の呼び声高い作品!その訳は・・・?

  

 ストーリーはロンドンの恐喝王:ミルバートンの書簡(ラヴレター)高価買収から依頼者である婚前令嬢を守るため手紙奪還に奔走するホームズ&ワトソン、という筋書き。最終的に夜半にミルバートン邸へ押入り強盗するしか手はなし――という、正典通りの展開。

 

 『グラナダ版ホームズの集大成ここにあり』とまで言われるゆえんを徹底解剖。遅ればせながらこれまでTVスタッフの名を出していないことに気づいた。脚色:ジェレミ・ポール 監督:ピーター・ハモンドの両氏。

*シリーズ1~5は、正典にあくまで忠実に、再現主義、しかし102分スペシャルバージョンは「グラナダの意地・気合一発」編、正典のドラマ性を一層深く掘り下げ、かかれなかった物語を視覚化した映像ならではの成功作か。おそらく私が第5シリーズの中でいくつか絶賛した『ソア橋』やら『ショスコム』の系統。あれでスタッフは経験と自信を重ねていたとしても不思議じゃない。ストーリー的には嘘をつかず、それを上手に生かしボリュームを与えた、とでも言えるか。

*221Bを訪れた大物犯罪者はモリアーティの他だとこのミルバートンがあげられるが、ホームズがまともな論法も戦術もなく見送ったのは彼だけ。よってベイカー街シーンではひたすら苛立ち、ハドソン夫人に当たり散らす(食器を早く下げてくれ、とか今日はもう下がって、とか)ホームズが見られる。ホームズの分析や推理がことごとく役に立たず。

――Paris、12年前から始まるのがポイント。

1)質の良い手紙と封蝋、いつ見ても「これぞホームズ」グッズ。

2)「結婚のお祝い、バターのお皿ばかりよ」――もらってみたいもんだ。銀製の。

3)「3:45のロンドン行き」ってセリフとして響きがきれい。345という数字の並びがいい。

4)ベイカー街221B。これがたっぷりのイングリッシュブレックファーストてやつですか。食卓がやっと画像で。緑(野菜)があるのって珍しい気が。

5)朝8:30から各紙のゴシップ欄を読んでいるワトソンも少々ご機嫌斜め。

6)婚約相手の過去の手紙を見せられたぐらいで泣きわめくお子ちゃまレベルのお嬢さんが多すぎ。ミルバートンに付け入れられても「自業自得」というか、当時の女性は仕方なかったのかな・・・・そんなことで疑える程度の信頼しかないなら、始めから結婚なんかするな、続きゃしない、と私なんか呆れちゃうけど。手紙一通や写真一枚で婚約破棄だの大騒ぎできた時代のお嬢さんは、ある意味うらやましいわ。

7)「50人もの殺人者と渡り合ってきたが、ミルバートンほど嫌悪感を抱かせる奴は居なかった」家族もなく、人間を嫌って、自分の孤独に閉じこもっているという。ドキっ。私みたい???ヤバイ。

8)36分、このシリーズが人気の訳その1と2が登場。今回は『目的のために手段を選ばず』作戦だからね。で211Bでホームズ、入浴シーンが!白い部屋着に包まってワトソンと熱い飲み物を飲むシーンがあるのだけれど、何飲んでるの??

9)その4分後。シリーズ人気の最大の訳はこっちなのか?初回放映時に英国紙「サン」の見出しは「ホームズ、キスをする!!」だったらしい・・・

10)私はそっちはどうでも良かったよ。それよりその後の別のシーン、ベイカー街でワトソンの肩に手を置く一瞬のシーンの方が、演出上の重みや細部の丁寧さを感じた。

11)日曜の午後、いつもここを通る――のシーンのロケ公園はどこ??

12)54分、キスシーンを邪魔しに来た犬の名前が「マクシミリアン」って凄いなあ。侯爵みたいな(笑)「ホームズ検定」とかで、答えたい問題だ(妄想中・笑)

13)ミルバートンにあるのはホームズ曰く「敵に負けない活力だ」。なるほど。ホームズ哲学。

14)65分前後。211Bでワトソン&ホームズvsミルバートン、世紀の対決となるかーーというところなんですが、これが意外にもズッコける。大佐の死はあんたの個人的責任だ、と詰め寄るホームズ、いつもは冷静な知的会話ゲームを楽しむのですが、手持ちカードがなく、結構本気モードで感情をぶつけて行く姿が逆に新鮮。しかもいつものホームズ役的会話の主導権をワトソンが(意図的に)担っているあたりも新鮮。ホームズがドアを開け閉めしたり、コートをお預かり――したりして逆にワトソン役を担当するわけ。

 あ~あ・・宿敵に「ホームズさん、もっと『独創的な』対応をしてくれると思っていましたがね」とか言われちゃったりして・・・ホンモノの手紙なんか持ってここにきているバカなわけはないし、ピストルも持ってるし、完全に相手が上手・・・。

怒りの収まらないホームズ、椅子に座って瞑想・・・東洋的な禅?の指遣いですが・・・。あと一番上の写真にもあった緑の数珠もどことなく仏教チック。3年居なかった間(これはホームズ潜伏後の『ホームズの帰還』作品だから)の、チベットで仕入れてきた知恵とグッズか??

 ちなみにここでの見どころは、211Bの部屋の造り、というか見せ方か。何故かいつもの211B  の部屋内が、広く見える。カーテンを閉め切っているからなのか、そして途中でバッと光を浴びせるからなのか、ホ&ワの役割分担が真逆だからなのか、二人がやられているからなのか、とにかく別の部屋みたいに見える不思議。

15)「美術は脳の鎮静剤だよ」ところでホームズさん、14日の舞踏会に潜入しますが彼、ダンスはどうだったんでしょう?あれだけタッパがあるのだから、女性をリードさせたら絶対絵になったはずだし、バイオリンや作曲をやってドイツ音楽にも造詣が深く、絶対音感なんて人並み以上に優れているはずだから、踊らせてうまくないわけはないと思うんだけど。ボクシングやバリツ(?)の心得もあったわけだし、ダンスといっても4回転とかバック転じゃなくあくまで英国紳士のボールルームダンスのことを私は言っているんだけど、出てきた試しがないんだよねえ・・・。ワトソンはうまく踊ってたけどさ。「8分後に出かけるぞ」ってのも時間に性格で素敵。

16)ワトソン大激怒の巻。ホームズが「怪盗ホームズ!」に看板変更、という計画を聞かされ“マジギレ”する。ちょっとした見ものの場面だと思うけど。「知力より暴力か?」は正典になかったけれど、さっきホームズがミルバートンに言った言葉を使って。ホームズは「僕の自尊心と名声がかかっているんだ」とまで言う。正典は正典で、グラナダはグラナダで、緊張感と信頼と友情の交差する二人のやり取り。

17)正典は「ホームズがケースの中の道具を広げ、繊細な手術を行う外科医のように冷静な科学的正確さで道具を選ぶのを見つめていた。私は金庫破りが彼の特別な趣味である事を知っていた」ってのがある。医者に言われちゃね。

 同じく正典のラストは読者の想像通り、来たるべき翌朝――のシーンが続くわけだけれど、グラナダの方はいい余韻を残すなあ。物語を書きつけようとしたワトソンに「この事件はあまり書かない方がいい。君のポケットの中に、葬り去ってくれ」と静かにいうホームズは、隠せぬ疲労と、それによって人間味をまたひとつ増した、沈痛にも似た面持ちが、静かなテーマソングと共に沁み渡るのだ。(このラストの曲がまたいい)


Sherlock Holmes-The Master Blackmailer Part 1 - YouTube


The Master Blackmailer - YouTube