Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

グラナダ版ホームズ第6シリーズ 第36話 The Adventure of the Three Gables 「三破風館」

 56短編の51番目。1926年発表。事件簿収録作。大柄の黒人プロボクサーが突然221Bに押し入ってくる――差別表現問題で話題になってしまった作品。

 いよいよグラナダ版も最終シリーズ、残すところあと7作品。ジェレミー・ブレッドは体力的にも精神的にもそうとうしんどかった様で、今作品収録中に倒れて入院。エピソードを知ってしまうと辛くなるけれど、画面の中のホームズはそれを感じさせない気迫の演技。物語を純粋に楽しむことにして、まずは短編の世界へ。

  

1)正典では物語冒頭、ホームズが221Bに殴りこみにやってきた黒人ボクサーに対して差別的ともとられかねないセリフを吐く場面が問題に。グラナダ版では留意したのかそうしたシーンはなく、むしろホームズが吊るしあげられている滑稽な導入。

 黒人ボクサーのスティーヴに関連し、映像も正典ですら、背景まで突っ込んでいないが、英国の奴隷貿易の歴史上、(16世紀~のいわゆる三角貿易)いろんなところでいろんな専門家が掘り下げた議論を巻き起こしているみたいだ。素人の出る幕皆無。(世界史の教員免許持ってるけど――)当時、アフリカ大陸の英国系の砂糖農場で働いた商人たちが、のちイギリスに渡り上流並みの暮らしをはじめ、産業革命の引き金になったとする見方もある。当時の「奴隷交易」の問題の根強さはしかし、国の為政者たちには一切届かなかった。

 コナンドイルは自身を「歴史小説家」だと言っていた。私はこのストーリー自体は何度読んでも決してホームズランキング(私的)上位に食い込むほど面白いものではなかったのだけれど、「歴史」というただ一点から見た時、砂糖奴隷のアフリカ系と、今回のドイツ熟女、イザドラの夫(だいこん糖の大成功王)が、砂糖消費国の英国で繋がる――という構図は歴史の中の人間という運命の、一抹の哀しみさえ描いているように思う。

2)品のいいおばあさん未亡人登場。死んだお孫さんはローマ大使館書記官。しかもワトソンのラグビー後輩というネタ。手作りのケーキ、美味しいですね、と言ってあげるホームズがなんか優しい。しかも泊まり込みで一晩付きっきりのお守りをすることになったのはワトソン。おばあさんの話に相槌をうつ話上手なワトソン、なんかもうお医者様を通り越して人格丸出しって感じでワトソニアンの気持ち、わかるわぁ・・・。

3)後半がどうも展開がよく分からないのよね・・・。映像はきれいなんだけれど、話がどうもすっきりと行かないというか。退屈ではないんだけれど、盛り上がりとか、50分の中で「ここだけは」という譲れない部分っ気迫があんまりないかも。

4)実際に元ボンドガール役の女優さん、ドイツ砂糖王の亡き夫を演じる美女、イザドラだけど、教養と品格のほどが、アイリーン・アドラーと比較にもなんないわ。出直してらっしゃい!!

5)いやあビックリした。ワトソンが暴漢に襲われて怪我したシーン(『高名の依頼人」でホームズがぼこぼこにされるよりワトソンの方がひどいぞ)顔から血を流している医者に向かって『汝自身を癒せ』って、アンタね(笑)

 ビックリ情報。この時泣いてるメイドさん、なんとホンモノのワトソンさん(エドワード・ハードウィック氏)の娘さんというのは有名な話。あんな泣いてもらえて――嬉しいねえ、エドワードパパさん。

  

6)ラストはイザドラに向かって「よろしい、あなたの知性はその程度ということにしましょう」とかさっさとロンドン警視庁にいくそぶりを見せるホームズだけれど、映像のほうがセリフが分かりやすくなっていた。イ:「自分の身を守ることがそんなに悪いことかしら?」ホ:「男を屈服させる力のある女が、何故男の保護を必要とするのか僕には分からない」――というやり取り。まあ女ってそういう、不可思議な生き物ですから。

 

 ラストの公演のシーンも「行こうか」でサクッと。やっぱり男同士のあっさりした友情はいいねえ。H&Wだからか。今回は話にどうも惹きつけられず、最後まで集中力に欠けた。どうして。