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Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

SHERLOCK/シャーロック3-3 His last vow 『最後の誓い』感想その4  A deal with the devil:悪魔との取引 編

Sherlock

 紅茶やパンチに薬をもって家族一同眠らせたSH。JO「いったい何した?」SH「 A deal with the devil」悪魔との取引さ――我々一般人にとって、この世にいるうちはできれば経験しないほうが幸せな事象、というのも多々ある。

【回想シーン】カフェ=「病院のカンティーン(食堂)」最初はSHの脳内イメージ、マインドパレス内の出来事かと思っていた。が、どうやら実際にマグヌッセンを呼びだした模様。用件は SH「Show me Appledore/アップルドーアに行きたいのですが」マグ「全ては交渉値段次第」SH「A Christmas present/クリスマスプレゼントです」マグ「何をくれる?」――My brother.(僕の兄を)――悪魔との取引ゲームオン。

 この記事を書くため再びスクリプトと照らし合わせながら68分から見直した。この食堂シーン、実にSHが未来を予測した発言をしている。(マグヌッセンに対して)「見かけより軽率ではないですか?」メガネを取って「携帯できるアップルドーアで読んでいる・・・」

 ここで一つの仮定条件。保管庫がああいう状態(後ほど)であることをSHはこの時点で予測していたかどうか?最初は当然SHのこと、全くの「青天の霹靂」なわけなかろう、「最悪それもありうる」と心のどこかで読んでいて、だからジョンに念のためアレを持ってこいと頼んだのだと思っていた。でも二度目、三度目に見た時、保存庫を除いた時のSHの衝撃、反応、眼の閉じ方―といった一つ一つの演技が、あまりに深刻で、ショッキングで、深く、静かに自分の運命を受け入れていく様子が段階的に伝えられる。ん?やはりこれはSHにとっては予想外の出来事だったのか、そしてここへきて、ついに自分が悪魔に魂を売り渡すことを受け入れ、心静かに、あとは実行に移すタイミングを計算していたのか、と。

 ひとまずそのシーンまで進みましょう。

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【再びホームズ邸前】SH「銃を持ってきたか?」JO「なんでクリスマスディナーに僕が銃なんか持って来なきゃいけないんだよ」SH「上着の中に?」JO「yes」当然いつものパターンに。お迎えのヘリ到着。低音の音楽がムード演出。

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【Appledore / アップルドアへ】<実在のお屋敷だそうな>

マグヌッセン:「Mycroft Holmes is the most powerful man in the country. Well ... apart from me.Mycroft’s pressure point is his junkie detective brother, Sherlock.And Sherlock’s pressure point is his best friend, John Watson. John Watson’s pressure point is his wife. I own John Watson’s wife ... I own Mycroft.」――スゴイ4段論法ですけど。
「マイクロフト・ホームズは国で一番の権力者――私を除いてね。そのマイクロフトの弱点は麻薬中毒で探偵の弟シャーロック、そしてシャーロックの弱点は、彼の親友ジョン・ワトソン。ジョンワトソンの弱点は彼の妻。私がジョン・ワトソンの妻を手に入れればマイクロフトを手に入れたも同然」 死ね・・・。

 交換条件:マイク兄のパソコン(全機密データ)vs メアリ個人情報

 

 余裕でウイスキーか、マグヌッセン。ジョンの火あぶり事件も彼の計画の一つ。SHが生理的嫌悪感を覚える彼の嫌らしさが全身からにじみ出ている。その点、モリアーティーとは別人。Mは宿敵であると同時にもう一人の自分、鏡だった。同じ根っこから二つに分かれた枝同士という気持ちを、互いに抱いていた。

 パソコンのGPSからマイク兄は国力総動員してマグヌッセン逮捕(保管庫にある機密情報所持)に駆けつけるだろう。それを分かっていながら笑いを止めないマグヌッセン。どこまでも卑劣なゲス男ぶりが。

マグヌッセン:「Because Sherlock Holmes has made one enormous mistake which will destroy the lives of everyone he loves ...and everything he holds dear」(何故なら彼は大きなミスをおかしたから。ミス=彼が愛する全ての人を破滅させる)←最初に読んだ時、この意味が分からなくて。しかし保管庫に行けば全ては明らかに――何もなかった。全てはマグヌッセンの『マインドパレス』の中に。

JO「何故だ?証拠がないのに?」マグヌッセン「ニュースの世界では載せるだけでいいんだよ。君たちが明日、国家機密を売ろうとしたというトップニュースになるようにね。外に出よう、そろそろ君らを逮捕しにやってくる頃だろうから」

 シャーロック、考えはあるか?とジョンが言った時、彼は答えず、ただじっと目を閉じた。何かをぐっとこらえるように。この時「保管庫が彼の頭の中なら、それを破壊するしかない」と、最後の手段に出る腹をくくったに違いない。実行の決定打、引き金を引いたのは、まだこの後、外に出てからになるが。

【いよいよクライマックスへ】(78分)明るかった外は、既に日が沈みかけ、暗い雲が立ち込めている。これから僅か数分の出来事の時間の経過が、周囲の闇の蒼さの深まりと共に(それは殆ど音を立てるみたいに、ぐんぐん濃くなっていく)描かれる。

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「メアリーが誰を傷つけ彼女を敵と思っている人間がどこに居るか知っている。その情報はマインドパレスの中にある。すぐにでも連絡して人生を壊すことだってできるんですよ」とマグヌッセン。これが彼の「やり方」。こうして国を支配してきた。

 JO「どうするシャーロック?」マグヌッセン「どうする必要もない。私はビジネスマンさ。君たちなんて資本の一つにすぎない、申し訳ないが今回はヒーローになる機会はないな」

ーーー空からはものものしいヘリの音が段々と近づいて。3回目のマイクロフト「シャーロック・ホームズ、ジョン・ワトソン、その男から離れなさい、いますぐ!」命令のあと。

 Shは一瞬、ちらりとジョンの顔を盗み見るのだ。(写真上右)そして素早く、自らのとるべき行動に―――出た。

 Sh「ちゃんと調べてないじゃないか。Oh, do your research. I’m not a hero. I’m a high-functioning sociopath. Merry Christmas! 僕はヒーローなんかじゃない、高機能社会不適合者(ソシオパス)だ!メリークリスマス!」

 『一人撃たれました』(無線)

 *マイクロフトはおそらくマグヌッセンへ狙撃命令――を出したかもしれない。あと数秒待てば。事態がここまでになったからには、身柄を確保してなんてことはたぶんしなかっただろう(理由づけはあとからでもできる)でもSHは兄が来るのを待って、わざわざ兄の目の前で、ジョンの上着から銃を引き抜いて頭を撃ち抜いた。

その瞬間、彼は自分がやったとでも言うように即座に両手を上げ

SH : Get away from me, John! Stay well back!
(僕から離れるんだ、ジョン!もっと後ろへ下がれ!)

JO : Oh, Christ, Sherlock!!!(何やってるんだ、シャーロック!!)叫び声
MH : Stand fire! Do not fire on Sherlock Holmes! Do not fire!
(そのまま、撃つな!シャーロック・ホームズを撃つんじゃない!撃つな!)
JO : Oh, Christ, Sherlock・・・・(なんてことだ、シャーロック・・・)今度は声にならない。ジョンも両手を上げて。

 その時SHは明らかに、少し微笑んで、ジョンのほうを振り返ってこういうのだ。

SH : Give my love to Mary. Tell her she’s safe now.(メアリーによろしく言え。もう安全だからと、伝えてやってくれ)

 うおおおお・・・。

 最初に見た時は私もショックのあまり唖然。2度目にイヤホンでセリフをヒアリングしながらスクリプト作った時、このセリフで一気に・・・な、涙が・・・。私としたことが、一体なぜ・・。

 ギブマイラブトゥーメアリー・・・つまりさっきの4段論法で行くと、Shの弱点はジョン、ジョンの弱点はメアリー。逆に辿ってみよう。メアリーを守ることはつまりジョンを守ることでもある。

 E2で、SHは結婚式で誓った。「何があっても、どんな状況でも、僕は生涯をかけてジョンを守ると約束します」と。

 思えば、出会った時からジョンはその銃の腕前でSHの命を救ったではないか。以後何度、彼はSHを有形無形の形で支え、救ってきたか。それは惜しげもなくいうがヒューマンなジョンの「愛情」だ。沢山の愛を注いで、SHの身に危険があれば命さえ投げ出す覚悟だった。プールでモリアーティーの爆弾が付けられた時もそうだ。SHのためなら命をかけて彼を守ろうとした、その姿に当のShですら深く心を動かされたのだから。いつも揺るぎなく、周囲がどんなに豹変してもこれだけは変わることはなかった――『ジョンの覚悟、SHへの想い』。当人はどれほど強く感じてきたことだろう。

 彼はジョンによって救われ「生かされてきた」。スピーチでも明言した。

 だから、ジョンを守るため自分の命すら差し出すのは当然だとSHは考えた。ジョンを守ることすなわちジョンの愛したメアリを脅威から守ること。二人の、いや未来ある三人に幸せのために。彼は喜んで、自分の立てた誓いに忠実に、引き金を引いたのだと思う。

 「よろしくつたえてくれ」普通なら「say hello to誰誰」を使うところ。でもGive my love to Mary. 直訳すると彼は「僕の愛をメアリーに伝えて」と言ったのだ。あのSHが自身の最後を自覚しおそらく使ったことのないLOVEという単語を持ちだした。もう一度確認のために書く。この現場に及んで、SHにとってもはや『メアリー=ジョン』の公式が成り立っている。つまりGive my love to John.『ジョンに僕からの愛と感謝を』――と言ったのと同じことではないか。

 

82分16秒あたり、これを言い終えると彼はまたヘリ(つまり兄)に向きなおって両手を上げひざまづく。さすがの兄も、ヘッドホンを外し茫然と――

マイクロフト : Oh, Sherlock. What have you done?(シャーロック・・・何てことをしてくれた・・・)

 

 最後は子供時代のSHがでてくる。よく見ると涙をぼろぼろこぼしている。強い風を受けてしゃくりあげるようにしながら、一生懸命、兄のほうに顔を上げて、立っている。

 ――――そう、子供時代のSHは、泣いているのだ。張り裂けんばかりに。

 

  【その5】ラスト、飛行場でのお別れシーン『東の風編』へ続く。