Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

パリ恋 part 2

『病院で恋に落ちたら』後日談。悲しいほどに朝から雲ひとつなく晴れ渡った土曜。こんな日もパリにあるんだ。

 

 一昨日、私がひと目でノックアウトされた例の若き医師とのあれこれはこちらを。


病院でひと目、恋に落ちたら in Paris - Entre la poire et le fromage

 5軒目となったこちらの病院でも、肝心の当方要件は成立せず。22時ごろやっと別の病院に紹介状を書いてもらって疲労と共にタイムリミット。

 翌日それを持って戦闘再開。ところが6軒目になるそこも各種事情により却下され最後の望み、もうダメもとで7軒目に当たってみると、もしかしたら2か月後にランデブー(予約)が取れるかも知れないという。

予約って、別に私、患者じゃないんですよ?」

「でもそれまで一杯なの。予約要らないのね?滞在、出来なくなっても知らないけど」

 いよいよ涙が出てきた。その相談のためだけに料金をふんだくられたのだ。私は領収証を突きつけ、今書類が書けないのなら、さっきの現金を返せと言い、ほんとうに奪い返した。だってこれでお金とったら詐欺じゃん。

 そして例え2カ月先にお願い出来るとしても、こんなヤクザなところには生涯頼まねえ、とタンカを切りそこを出た。気がつけば、泣いて一昨日行った5軒目の某病院に向かって歩いていた。行って何をする気だったのか。でもそこしか、行く先がなかった。

 こんな日に限って、泣きたいほど朝からバカっ晴れだ。ってか実際泣いてるけど。そしてこんな日に限って、メトロ6番線が止まっている。しょっちゅうだけど。

4駅歩いた。歩けると思ったのだ。泣きながら、受付の『彼』と、紹介状を書いてくれたドクターの顔を思い出しながら、いい歳した独身女、兼異邦人、兼無職、歩き続けた。ここで客死しても悔いはない。

 土曜だがそこは緊急外来だから当然24時間。前回と同じ入り口から入った。――残念、お目当ての「彼」はいない。同じ歳ぐらいの女の先生が対応。私がその時の医師に会いたい旨告げると「あ~、ドクトル××は、偉い先生だから常勤ではないのよ。もちろん今日は居ないし××××(⇒早口でよく分からない)」

 その時、なんと、別のイケメンドクター登場!!!

  ★★★★★!!!!

 全く前回とタイプが違うのである。

 彼は「木曜の夜に君、来てたよね。ドクタ―××が、紹介状を書いたよね。何か問題あったの?僕が聞こう」と流暢な英語セリフを発する。さりげなく、その女医と配役交替。・・・倒れていいですか・・・。

 前回の彼はスポーツ少年がそのまま成人し、医学生⇒研修医⇒勤務医になっちゃった感じだけど、こちらの彼はもともと情に篤そうなヒューマンタイプ。そう、ちょうどシャーロックで言ったらジョンみたいな感じ。あ~、似てるかもね。

 私は(息も絶え絶え)“紹介状を翌朝一番でもって行ったが、これこれこういう理由で功を成さず、最後の望みだった7番目の▲▲という場所も、たったいま無残に敗退してきたところだ、もう後が無い”みたいなことをまくしたてた。

 なんとその彼「分かった、出来ることやらせてくれ」みたいなことを言い、なんか私のためにほうぼうに電話かけてくれている―――それを見ただけで、ボロボロまた泣けてきた。なんでこの人、こんなわけわからん初見の異国人のために、しかもあと4分とかで心臓蘇生しないと死ぬ、とか、一刻を争う病気の患者でもないのに――土曜の朝からこんな、親身になって、、、、、うわー、涙とまんね・・・・、と私。

【みじかい考察】

 やっぱり異邦人が、自分のこともできないのに、こうして人の助けを借りて生きて行くのはやっぱり、甘えなんだな、とどこかで思った。そしてフランスに居る限り、私は社会の荷物であり続け、社会の役に立つことはなく、人のために生きることはできない立場なんだな――、と。

 「正義」の側に、力のある側に、人を助けてあげられる側には、立てないんだな―と。

 それを想ったら、いつまでこうして、しがみついて、もう夢などひとかけらもないフランスに、こうやって人々の善意を食べながら生きて行くのか???

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 彼の起こしてくれたアクションについては、ほんとうに、ただただ頭が下がるとしか言いようのないことだった。後から考えても、人として正しい意見を主張し、然るべき、公的機関へまわしてくれたのだ。知っていたら私だって最初からそうしただろうし、逆の立場だったら(つまり私が母国に居て、そういう外国人がいたとして)同じことをしたかもしれない。「医者」を越えた行動だったかもしれない。そのことについては、ここで書くことは差し控えたい。とはいえ、私は書き手だから(笑)いつものように、そう例によって例の如く「これは時効だと思うので――ー」と、何年か後、「書くべき時期」がやってきたら、ポロっと何かの媒体で暴露するだろう。皆さん、どうか忘れていて下さい(笑) 

 おまけのハナシ。別れ際、私はどうしても、彼の名が聞きたくて、メモする振りをして、“あ、あれなんていう場所だったっけ、あ~、フランス語でなんて書くんだっけな”とかつぶやきながら手帳にペンを突き立て、行き詰った振りをしてみせた。当然知ってるんだけど。おもむろに両グッズを机に置き、ずずいとムッシューの前に突きだした。彼はそれを書いてくれて、私は「Monsieur gentil (ムッシュー・ジャンティ―:優しくしてくれた人)、あなたの名前もここに」と追加要請。見るとなかなか素敵な、フランス人らしい男性の名だった。いつか、小説の登場人物にしよう。

 病院を出て、どこまでも澄んだ秋空の下、長い駅までの道のりを戻った。気持ち、足取りは軽かった。もう一度、来月行くべきところを確認しようと思って、手帳を開いたら、さっき気付かなかった、彼の名前の下、小さく文字が書かれていた。

 「Merci pour elle」<有難う、彼女に>

 ―――なんで、なんで、<有難う>なんだ・・・? 

     助けてもらったのはこっちなのに・・・

 

 バカみたいに空は高く、澄んで。

 どこまでも、秋の日のパリだった。