Entre la poire et le fromage 

『洋ナシとチーズの間』 パリのよしなしごとを徒然なるままに

フィナンシェじゃだめだったんですか、プルーストさん(7) ポルトガル菓子第2弾『パステル・デ・ナタ』

 ヨーロッパ最西端のポルトガルって興味深い国ですよね。私は一度だけ行った事があります。『ここに地果て海始まる』の岬と、壇一雄が文章を綴った異国の空気を吸いに。リスボンよりもナザレとか季節はずれの小都市が妙に肌に合うんですよね。まるで東京に出た22の娘が恋も仕事も上手く行かず、ある平日に、有給まとめてふらりと帰ってくるのを無言で受け入れるふるさとの町、みたいな。出来すぎてるな。漁師の操る網の踊るような動き、男たちの威勢のいい声、どこからか漂うイワシの香り、ふと日本を思い出したりして。ぼうっと浜に佇めばうっかり「ワタシここで海の民として果ててもいいかも・・・」という気になる。

 高校日本史で《大航海時代》って確か出てきますよね。あれ?中学でも習うんだっけ?大河ドラマなんかでもかなりの確率でその時代の栄華を引きずっている(伊達政宗世代です・当時小学生だった)遠い海の向こうから、肌も言葉も違う人たちが日本へもたらした西洋文化の様々。そりゃあ持ってくる方も大変だろうけど、迎え入れたほうも人生観変わっちゃうビッグイベントだったに違いない。前回触れた「カステラ」のほかにも、「ボーロ」「タルト」の(原型となったもの)など、どういうわけか日本人の心をくすぐる、懐かし味のスイーツが伝えられたそうな。ほんと、↑これどうしてなんでしょうね。科学的論拠に基づいて考察結果をまとめて頂きたいものです。研究が待たれます。(ここ、村上さん風にね)

 前回取り上げた半生カステラ『パォン・デロー』はじめ、ポルトガルの伝統菓子の特徴。フランスが『バターたっぷり』に対し、こちらは『卵(あるいは卵黄)たっぷり』。カスタードなど絡めたこくのある味わいが素朴さを醸し出す。修道院で生み出されたとされていますが、それは昔、修道女となるには支度金として、鶏または卵を教会に納める習慣があったから、ということらしい。お国柄ネタ。

半生カステラに続き、もう一つ。忘れてはならない「卵たっぷり、紅茶とあわせて懐かしさに浸る」ポルトガル伝統菓子『パステル・デ・ナタ(Pastel de Nata)』です。パステル・デ・ベレン(Pastel de Belém)とも言う。小さなカスタードクリーム入りタルトで、街のお菓子やさんやカフェにありますね。ようは『エッグタルト』。あれ、それって香港名物じゃなかったの!という顔したアナタ、詳しいですね。

 フランス版ウィキ先生によると、この「パステル・デ・ナタ」を、英国人のアンドリュー・ストウ(Andrew Stow)さんという方が、自国のカスタード・タルトの製法なんかをアレンジして、あえて砂糖控えめで作ってみた。で、マカオの自分のお店で「(ポルトガル風)エッグタルト」って売り出したらこれが大ヒット、いっせいにマカオ中のパン屋、お菓子やさんに広まったらしいです。この人、というより奥さんがビジネスセンスがあったのか、ケンタッキーとパートナーを組んで香港で売り出してみたり、90年代後半にかけて、台湾、シンガポールなどアジア周辺都市に広まり、もう前世紀からあったみたいな定着ぶり。日本でも一時期エッグタルトブームってありましたよね?『アンドリューさんのエッグタルト』というお店、皆さんご存知ですか。マカオ本店以外に日本には神戸元町、大阪など西のほうにあります。アンドリューのエッグタルト [Andrew's Original Eggtart] 

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「エッグ+タルト」という発想が、どうも私、日本の土地風土と合わない気がしていたのですが、杞憂でしたか。単に個人的にそれほど「好き」ってわけではないというだけの。中毒までは引き起こしてくれないのです。ハマッっちゃって3食これで生きられます的カリスマはない。でもどこか憎めない、幼ななじみと(いないけど)偶然再会した3月下旬、一緒に桜並木沿いのカフェに入って、小さいときの思い出話に花を咲かせる午後のーー伝統的英国紅茶であわせたい、脇役。ってことでいいかしら。

 私の中で『エッグタルトにおけるこげ色論争』というのがあります。表面に強めの焦げ色をつけるか、つけないぷるるんのままの若い黄色のタルトか。よく焦げ目があるのがポルトガル風、ないのが香港風とか言われるけどそれって違うような・・・だってどっちの都市でも、双方のタイプ売ってますよねえ。しいて言えば焼き色ついたら男性名詞、つけないのは女性名詞、みたいな。

 バニラの香りのあまり強過ぎるものは苦手。バリエーションとしてはタルト生地がパイやデニッシュっぽいものを見たことが。風味ではシナモン、キャラメルあたりかなあ。ちなみにパリのブーランジェリーでは、似たようなお菓子はあるけれど、まんま「エッグタルト」を名乗っているもの、もちろん専門店も見たことはない。(あったら私が知らないだけです、すみません!!)パイ系スイーツ(キッシュとか、ミルフィーユ)に負けちゃうのかなぁ。

 頑張れエッグタルト!どこのお国へ行っても、そのやさしい黄色はきっとシアワセな思い出を喚起させる、ささやかな相棒だから。

 『小確幸』って、ひょっとしてこんな味・形をしているのかも。

動画つきレシピ紹介 Pastéis de nata (petits flans portugais) : la recette facile